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今回は不良グループの抗争を描いた、1本の洋画をご紹介したいとおもいます。
その作品のタイトルは「ワンダラーズ」です!知ってますかね?
60sのオシャレな服装やイカした音楽で、オールディーズファンにも有名な映画です。
しかしこの映画単なる不良映画とは言えない、一筋縄ではいかない映画なんですよ。
解説があるとさらに楽しみめるのでぜひ読んでみて下さいね。
「The Wanderers」 ワンダラース 基本情報
1979年アメリカ映画。
監督は「SF/ボディ・スナッチャー 」「ライトスタッフ 」のフィリップ・カウフマン。
このフィリップ・カウフマンはインディ・ジョーンズ シリーズの第1作「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」の原案も担当しています。
出演は、主人公をリッチーを好演したケン・ウォール。
当時は売れそうだな〜とおもいましたが、その後「アパッチ砦・ブロンクス」「ザ・ソルジャー」などに出演。テレビドラマなどで活躍していましたが最近は目立った活動はしてないようです。
ボルディーズリーダー、テラーの彼女ピーウィー役に「天国の日々」のリンダ・マンズ。
リッチーとの恋仲になるニナ役に「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」のカレン・アレンなど。
「The Wanderers」 ワンダラーズ 簡単なあらすじ
舞台は1963年のニューヨークはブロンクス。
高校生を中心に街の不良少年たちは、人種によるグループを結成しています。
日々のグループ間の抗争を軸に、恋愛、青春、世代、時代、社会情勢を象徴しながら描く青春映画です。
なかなか深い映画なので、少しづつ説明していきますね。ネタバレありますので、見てない方は見てから読んで下さいね。
もちろんネタバレしてもいいよという方もどうぞ。
一番重要なのはこの映画の舞台が1963年ということです。
1963年というのはアメリカにとって重要な年のひとつになります。
これはまたのちほど解説しますので、とりあえずはこの映画の舞台は1963年だということを憶えておいて下さいね。
人種の「るつぼ」 アメリカ合衆国
「るつぼ」て言葉最近はあまり使わないですかね。いろんなものが混ざっているさまのことです。
人種のるつぼは、いろんな人種が混ざっているということですね。
この映画に出てくる不良グループたちは、みんな人種で集まっています。
ではどんなグループがいたのか、憶えていますか?
・主人公たちのイタリア系グループ「ワンダラーズ」
・主人公たちと対立する黒人グループ「デル・ボマーズ」
・最強暴力軍団アイルランド系「ダッキー・ボーイズ」
・カンフー使いで苗字がみんなウォンの中国系「ザ・ウォンズ」
他にも、劇中には少ししか出てきませんが、南米ギアナ系、ポーランド系のグループもいます。
一つ変わったグループとしては「ボルディーズ」
190キロの巨漢のリーダー、テラーが率いるグループです。この映画でも中心的なグループです。
このグループ他のグループより年長者がほとんどで、とくに人種のくくりがありません。イタリア系ワンダラーズのターキーも「ボルディーズ」に入ろうとしていましたよね。
どうもこのチームは高校を卒業してからも、社会になじめず不良を続けている集団のようです。暴走族にもOB会とかありますよね。
あとテラーの彼女のピーウィーは女性ですが、グループの一員です。ここも他のグループと違うところです。
そのかわり、男は頭をスキンヘッドにし黒のライダースを着用することが絶対です。
移民の国アメリカ
日本に住んでいるとあまり実感が湧きませんが、このようにアメリカは、いろんな理由でいろんな国の人々がこの土地に渡ってきて、生活している国なんですね。
とくにこの映画に出てくる移民たちは新移民と言われ、1800年中頃から1900年初頭に入ってきた人たちなんです。
一番多いときは20数年の間に約1800万人もの移民がこのアメリカに流れてきたと言われています。
ものすごい数ですね!
元々はアングロ=サクソン系白人のプロテスタントが中心となって歴史が作られてきたアメリカでしたが、新移民の爆発的増加に脅威を感じ1924年には移民法が制定されて人数が厳しく制限されました。
第二次世界大戦後には、このニューヨークのブロンクスは町として整備され、新移民たちの受け入れ場になりました。
なのでアメリカでもとくにブロンクスは人種が混沌とした場所だったのです。
それで問題が起こらないはずがありませんよね。犯罪率もとても高い場所でした。
こんなシーンがありましたね。授業中に先生はお互いの差別を意味する隠語を語らせます。
次から出てくる出てくる。この多さにびっくりしますが、それだけ人種間での深い溝があったことがうかがえます。
宗教の違い
さらに問題になるのが、日本人ではわかりづらい宗教問題です。
今のアメリカを築き上げた旧移民のイギリス人たちはキリスト教のプロテスタントでした。
しかし新移民の人たちはキリスト教カトリックやユダヤ教、ギリシャ正教などばらばらでした。
ターキーがダッキー・ボーイズにやられるところは教会でしたね。
アイルランド系はカトリックとプロテスタントが対立していた国として有名です。
またリッチーとニーナも教会の中にまぎれこみますが、これはカトリック系の教会です。
イタリア系の新移民はほとんどがカトリックの信者でした。
同じキリスト教でも、カトリックとプロテスタントでは教会の見た目や内装もまったく違います。
そんなところは日本人だとちょっとわかり辛いですね。
人種の違いだけでなく、宗教の違いも隔たりの一つで、この映画ではかなり意識して作られているので注目して下さい。
世代のずれ
さらにこの映画では同世代の確執だけでなく、世代の確執も描いています。
父親と子供の決別。
ジョーイの父親はかなりインパクトがありましたね。毎日筋トレして、妻や息子には威圧的、ペリーの母親と浮気までしていました。
彼は年代からいっても戦争体験者でしょう。そしてその戦争で何かつらい体験があったと考えることはできないでしょうか。もしくは戦争が忘れられないとも考えられます。
アメフトの試合中にダーキー・ボーイズに襲撃されたときには、勇ましくベンチを壊して、その棒切れでバッタバッタとやっつける様は、「お、この親父やるじゃん!」と誰もが思いますよね。
そして息子が、「ありがとう父ちゃん!」と抱きつこうとしたときに、腹を一発かますシーンには爆笑してしまいました。
しかし、とにかく自分を鍛えることと浮気などのスリルを感じていないと生きている実感が沸かない、戦闘にしか興味がなくなってしまった、哀しい男と見ることもできます。
ビートルズのデビューは前年の1962年というのもこの映画には出てきませんが、とても重要です。
もうほんの少しあとの世代になりますが、カウンターカルチャー、学生運動などのは、この戦争体験者の親世代とその子供の確執がそもそもの発端と言えます。
そう1963年はアメリカの変革その始まりの年といってもいいのかもしれません。
ですからこの映画は1963年が舞台なのです。
1963年はジョン・F・ケネディ暗殺の年
終盤こんなシーンがありますね。街角をまがるとみんなが泣いています。
その前のシーンはダーキーが殺されるシーンだったので、観客はダーキーの死を知って泣いているのかなと思います。
しかし泣いている人々は、テレビを見て泣いていたのでした。
第35代アメリカ合衆国大統領、ジョン・F・ケネディがダラスで暗殺されたというニュースを見ていたのです。
ケネディは先ほど書いた新移民の家系の子供ですなんです。
アイルランドから1849年にじゃがいも飢饉とカトリック教徒迫害の影響でアメリカに渡ってきたのがジョン・F・ケネディの曽祖父です。
今までの大統領は最初にアメリカに入植してきた旧移民の人たちが中心でした。
ですので、ケネディはアメリカ合衆国で初めてのカトリック系で、さらにアイルランド系アメリカ人の大統領でした!
つまりケネディが大統領に当選したということは、人種や宗教を超えたところがとても重要でした。
これは新移民の人々にとっては希望だったのです。
それが、やはり暗殺されてしまったのです。ですからみんなとても悲しく絶望的になって泣いていたのです。
この日をさかえにして、アメリカ人達の中に政治不信や世の中への不安や不満が生まれたと言っても過言ではありません。
そしてアメリカは激動の60年代後半から70年代に突入していくことになります。
泥沼ベトナム戦争が迫る
スキンヘッド集団「ボルディーズ」は酔っぱらって海兵隊への入隊にサインしてしまいますよね。
気づいたときは、もうサインしたからダメだと言われ、なんてことしてしまったんだ~と頭の悪い不良たちは後悔するという、ちょっとしたギャグになっています。
しかしこれは歴史を知っている人にとっては、強烈な皮肉をともなったギャグです。
これは彼らがのちに出兵することになるであろうベトナム戦争を表していて、彼らもいずれベトナムで本当の現実と地獄を知ることになるからです。
ケネディは対ベトナム政策として、ベトナム戦争への兵士派遣拡大を進めました。
ケネディ暗殺後はジョンソン大統領が引き継ぎ、ベトナム戦争は泥沼化となっていき多くの若者がこの戦争に駆り出されました。
ヒッピー文化 カリフォルニアドリーミング
親に失望したジョーイとペリーは、カリフォルニアを目指します。
「夢のカリフォルニア」ですね。ここは60年代半ばから後半にかけてヒッピー文化の聖地でした。
ジョーイは絵を描くのが大好きでしたよね。カウンターカルチャーは今までの常識を疑う運動です。
親には絵なんて描いてなんになるんだ!と言われても、どうしても絵を描きたい。
そんな新しい文化が花開く直前だということを彼らに象徴しています。
またヒッピー文化の幻想も、またいずれ崩れるものだということがほろ苦い旅立ちに見えます。
とどまる人たち
土地を離れる人がいれば、また残る人もいるのが人生です。
主人公のリッチーは恋人を妊娠させてしまいます。さらにこの恋人の父親たちはブロンクスの一角を牛耳るイタリアンマフィアたちです。
逃げることはできません。
そのうちリッチーも、ぶくぶく太ってアロハシャツを着て、この街を闊歩するおやじになるのだとマフィアたちに諭されます。
自分でももう覚悟を決めようとしたときに、外を歩くニーナを見つけます。
彼は本当はニーナのほうが好きなんですよね。
ビートニク
彼女は「 チャタレイ夫人の恋人」という発禁になるような衝撃的な小説を読んでいます。時代背景的とその後の彼女の行動から、いわゆるビート二クと呼ばれる、新しい文学運動の末期の信奉者だとおもいます。
ビートニクは1950年半ばから1960年半ばぐらいにはやりました。
代表的な作家は、アレン・ギンズバーグ、ジャック・ケルアック、ウィリアム・バロウズなどです。
その影響は文学だけでなく、その後の音楽にも影響を与えました。
ここで彼女を捕まえて二人手をつないで現実から逃避行か~!とおもわせると、ニーナはあるカフェに入ります。
それを窓ごしに見つめるリッチー。
そこには、一人のミュージシャンが歌っていて、そのミュージシャンに憧れのような恍惚のような表情を見せています。
時代は変わる
そのミュージシャンの名はボブ・ディラン。
彼の歌う歌は「時代は変わる」(原題: The Times They Are a-Changin’ )
この曲はケネディ大統領の就任演説をヒントに作られた曲だと言われています。
ケネディは黒人差別撤廃を訴えており、人種や宗教を超えた新しい世界を目指していました。
まさしく、古い考えはもう捨てよう、時代は変わるんだとという歌詞なのです。
黒人の公民権運動は、1963年の8月にはキング牧師の呼びかけに20万人以上の人々がワシントンに大行進したことで最高潮を達しました。
この一曲でこの映画全体のすべてを語った構成に思わず拍手の素晴らしいシーンです。
「時代は変わる」は63年の9月~10月頃に作られ、その一ヶ月後の11月にケネディは暗殺されてしまいます。
その後この曲は64年の同名のボブ・ディラン3枚目のアルバムに収録されました。
またボブ・ディランは先ほどのビートニクにかなり影響を受けたミュージシャンでもあります。
その様子を見たリッチーは、ニーナには声をかけずに、独身さよならパーティのみんなの元へと戻ります。
彼には「チャタレイ夫人の恋人」も「ビートニク」も「ボブ・ディラン」もわからなかったのです。
彼女とは住む世界がそもそも違いました。とても現実的で悲しいシーンです。
さすらう人々
ディオンのヒット曲「ワンダラー」という歌をみんなで大合唱してこの映画は終ります。
「みんな俺のことをワンダラーて呼ぶんだ、そう俺は放浪者、俺はさすらう奴なのさ。あっちへいったり、こっちへいったり。」
この歌は浮気性の男が、一人の女の子に決めきれずにフラフラしているロックナンバーなのですが、やはり、いろんなものを象徴していますね。
人は、誰もがみんなさすらい人ワンダラーズです。
それが物質的に移動していなくても、心は常にさすらうのが人間です。
そんな甘くせつなく苦々しい、そして1963年という年を本当にうまく切り取った映画だとおもいます。
ユニフォームで決める!
色々背景を知るとかなり深い映画ですが、もうたくさん言われてよくわかんないよ!という感じかもしれません。
確かに、確かに。映画なんて楽しくて映像がカッコよければそれでいいんですよね。
主役のワンダラーズはというと薄手のスタジャンをみんな着用しています。
そうグループにはみんなユニフォームがあり、チーム名が刻印されているんですね。
これがとてもかっこいい!当時日本でもこのワンダーラーズスタジャンが販売されていたそうです。欲しい!
ただただかっこいい映画でもあるのが、このワンダラーズのやっぱり最高なところです。
かなりネタバレしてしまったのですが、時代背景がわかって観るととても面白いので、ぜひ一度観て下さいね。
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